• 秋吉キユの小説

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    次の朝。 アルコールを分解しづらいらしい俺の身体は盛大に頭痛と吐き気を引きずっていて、 重い気持ちで玄関を出た。 「あ」 「あっ」 二人分の声が重なる。 八階に続く階段にはあの店員が座っていた。俺に気づくなり、ゆっくりとした動きで立ち上がる。 「......はよ」と言う彼は、昨日よりも声が低くてかすれている。朝に弱いのかもしれない。 「おはよう。何か用?」 咄嗟に態度がとげとげしくなる俺。凪はフワァと大きな欠伸をした。身長の高い身体がフラフラ、フワフワしている。脳裏にクジラが思い浮かんだ。 「一限、講堂でカリキュラムの説明会た...
    どうやら不運は続くらしい。 「うそだろ……」 昨日から姉ちゃんと二人で暮らし始めたアパートの前まで辿り着いて、俺は鍵を持っていな いことに気がついた。姉ちゃんに預けたままだったのだ。 嘆くのを通り越して、半ば諦めるようにアパートを見上げた。 俺と姉ちゃんが住む部屋は七階。窓に明かりは見えず、姉ちゃんが仕事から帰っていないこ とは明白だ。 アパートから大学までは地下鉄を乗り継いで二駅、徒歩を含めても二十分以内には到着でき る。大体の新入生が、路線をまたいで離れた学生街か、狭い学生寮に住んでいる中、俺は恵まれた環境だと思う。 ア...
    他人なんて、信じるべきじゃない。 信じたりするから裏切られる。 勝手に期待されて、勝手に見損なわれるんだ。 だから俺はずっと、ひとりぼっちだった。 ひとりぼっちでいることが正しいと、自分に言い聞かせていた。 その証拠に、今日だって絶望のリフレインは止まらない。 「神谷って、どうせ俺らのことを見下してるんだろ」 「あんな小説書いちゃうなんて、性格悪いよね」 「ちやほやされて、調子乗ってんじゃねえよ」 「お前に友だちなんてできるわけない」 目をそむけても、耳を塞いでも、脳に直接大音量のスピーカーを向けられているようだった。指から足の爪先ま...